クライアント
1951年8月に設立された日本航空株式会社(JAL)は、日本で最も長い歴史をもつ航空会社です。 国内線・国際線の定期航空運送事業、不定期航空運送事業、航空機使用事業、その他付帯する関連事業を手がけています。
2021年度~2025年度の中期経営計画で「JAL Vision2030」を定め、多くの人々やさまざまなものが自由に行き交う、心はずむ社会・未来において世界で一番選ばれ、 愛されるエアライングループを目指しています。
背景
JALは、10年先のあるべき姿をグランドデザインとして描き、さまざまな改革に取り組んでいました。 その取り組みの一環として、2019年に新設されたコンタクトセンター企画部では「すべてのお客さまにストレスフリーを実現する」という目標を掲げ、「旅マエ・旅ナカ・旅アト」という全旅行体験での顧客サポートを目指しています。
この目標を達成する上で重要な役割を担うのが、コンタクトセンターや空港など国内外の顧客とのタッチポイントで働くスタッフが共通した情報をタイムリーに確認するためのナレッジシステムの刷新でした。
課題
もともとJALのお客さま対応窓口は、航空券予約の電話受付業務に特化していましたが、近年は、さまざまな新サービスの登場に伴い、問い合わせ内容の範囲が拡大する傾向にあり、 オペレーターに求められるスキルも高度化していました。 しかし、従来のナレッジシステムはデータが複数のシステムに分散していたため、非常に複雑なディレクトリー構造になっていました。 お問合せを受けた際に、オペレーターが最適な答えを探し出すのに時間を要するケースもあり、お客さまをお待たせする一因になっていました。
ソリューション
JALは、従来のナレッジシステムが抱えていた課題を解消するため「POLARIS(ポラリス)」プロジェクトを発足しました。
これはオペレーターの経験や勘に頼らない検索性の高い、新たなナレッジシステムを構築する取り組みです。 ちなみに「POLARIS」とは、迷える旅人に正しい道を指し示す北極星を意味します。
複数のシステムにまたがるナレッジを「POLARIS」に統合することで、お客さまからの多種多様な問い合わせに対して素早く対応できるようになるだけでなく、オペレーターの負担を軽減し、さらに、生産性の向上により人財を付加価値領域へシフトできるため、コンタクトセンターを進化させる第一歩になると考えました。
POLARIS構築において重視したシステム要件は3つです。
- 24時間365日体制で運用できること
- グローバルレベルでサービスを提供すること
- 将来的には社外からお客さまが直接アクセスしてFAQなどにより自己解決できるといった発展性、拡張性
複数のパートナーからの提案を受けて、最終的に日本航空が選定したのはNTTコミュニケーションズ(NTT Com)とアクイアでした。 大規模なWebサイトのCMS(Contents Management System)として世界中で多くの実績を持つアクイアのサービスは、 グローバルレベルでのWebサイト構築・運用、コンテンツ管理、Webマーケティングなどに対応できるクラウドサービスであり、JALの要件を満たしていました。
こうして、2019年に、現場で働く100名以上のスタッフと一緒になり、アジャイル開発を採用してPOLARISプロジェクトはスタートしました。 旧システムでの業務にあたりながら、新システムを作り上げる大変なミッションでした。
EOLを迎える旧システムがあり納期が延ばせない状況の下、 新型コロナウイルスの感染が拡大したことで一時はプロジェクトを進めていくことが困難な状況でしたが、 多数のメンバーと遠隔でも円滑にコミュニケーションをとれる環境を構築するなど綿密な連携で乗り越えました。このプロジェクトの成功の要因は、私たちが達成したいことを現場とシステム側のスタッフ、パートナーと共有できたこと、そして全員一丸となって開発に取り組めたことにあると思います。
成果
POLARISの本稼働により、従来は分散していたナレッジが統合され、コンタクトセンターに加え、 空港など国内外の顧客とのタッチポイントで働くスタッフが共通した情報をタイムリーに確認できるようになりました。
メンテナンスも格段にしやすくなりました。 旧システムはアップデートの作業を行う際に出社する必要がありましたが、 更改後は自宅でも対応できるようになりました。 これは、現場に出社することが困難な状況にあるコロナ禍において非常に大きなメリットになっています。
また、全社員に対して情報を即時にアップデートできるようになったことも大きな成果の一つでした。 従来はナレッジを頻繁に書き換える必要はなかったのですが、日々、状況が変化するコロナ禍においては即時に全社員に対して情報をアップデートする必要があります。 POLARISを導入することで一元的に世界共通のナレッジを更新できる仕組みが整いました。
今後は、旅客部門だけでなく、運航乗務員や客室乗務員の領域も広範なナレッジを必要としているため、システムを応用できる可能性を感じており、 POLARISの利用範囲を広げることで、リソースを付加価値提供へとシフトすることを視野に入れています。
近い将来、日本航空のPOLARISが世界中の旅行者の「道しるべ」になる日が訪れるはずです。