人工知能、コンテンツ管理の未来、そしてWeb
私は先日、妻へのクリスマスプレゼントとしてPelotonのバイクを購入しました。そのバイクはベルギーにある自宅で使う予定だったので、ドイツからベルギーまで運ぶ必要がありました。バイクはかなり大きいため、車の荷台に収まるかどうかわかりませんでした。
そこで私は、既に所有しているもう一台のPelotonとともに車のトランクを測ってみましたが、それでも車に入るかどうかの確信が持てませんでした。ググってみましたが、検索エンジンはこの種の質問に答えるのは得意ではありません。答えがわからない上に、自分で解決するには忙しすぎて(いえ、本当は怠け者なだけですが)、バイクを宅配便で発送することにしました。迷ったときは、問題を外部に委託することが確実です。
私のバイク配送の問題から間もなくして、マイクロソフトがBingとChatGPTの統合を発表したとき、デモのひとつにChatGPTが車の荷台に荷物が入るかどうかを答えるというものがありました。いやはや、驚きです!もしかしたら、宅配便の料金を節約できたかもしれません。
イベントを見てからChatGPTに聞いたら、Pelotonは入ると回答が返ってきました。ChatGPTの答えの正しさを信じればの話ですが。
Pelotonの例で興味深いのは、複数のWebサイトからのデータを組み合わせている点です。複数のデータを組み合わせることで、ユーザーが自分で情報の集約したり組み合わせを行う従来の検索方法よりも、役立つことが多いのです。
このような例は、AIツールがインターネットの進歩における次の大きな飛躍の1つであることを確信させます。
従来の検索エンジンの仲介をAIが排除する
インターネットは、90年代初頭の商業デビュー以来、徐々にですが確実に、中間業者を排除することで既成の秩序を繰り返し破壊してきました。書店、写真店、旅行代理店、証券仲介業者、銀行窓口、音楽店など、オンライン上の対応業者によってすでに混乱をきたされた仲介業者がいくつかあります。
検索エンジンは、あなたと情報との間の仲介役として機能します。それも、仲介されなくなり、AIが仲介するのが一番いいように思います。
多くの人は、AIがGoogleを破壊する可能性があると話していますが、個人的にはそれは大げさだと思っています。Googleは自らを変え、変革していかなければならないでしょうし、それはもう何年も前からやっていることです。最終的には、Googleはうまくいくだろうと思います。AIは従来の検索エンジンを介在させずに情報を提供しますが、検索エンジンが消えるわけではないと思います。
「Webの大逆転」は進行中
複数のWebサイトからのデータを自動的に組み合わせることは、私が「Webの大逆転」と呼んでいるものと一致しています。これは、現在の検索優位のウェブに対して、プッシュ型のウェブ、情報がやってくるウェブへとゆっくりと、しかし着実に進化していることを意味します。2015年に書いた内容です:
Webが潜在能力を最大限に発揮するためには、今後10年間に大規模な再設計と再プラットフォーミングが必要だと考えます。現在のWebはプル型、つまりWebサイトを訪問する必要があります。Webの未来はプッシュ型であり、Webサイトを訪問することとは逆の事象が起こるでしょう。次の10年間で、私たちはプル型からプッシュ型のWebへと変化を目撃することになるでしょう。この「大逆転」が完了したとき、Webは電気や水道供給のように表舞台から消えることになります。
Facebookは、プッシュ型の体験の例の一つです。Facebookは、あなたの友人や家族の状況を伝えるために、集約された情報を「プッシュ」します。「プル」する必要も、個別に様子を伺う必要もありません。
似たような動きが、AI検索エンジンが私たちの質問に回答するときに起こります。私たちはこれらのWebサイトから回答を「プル」する必要がなくなり、「プッシュ」された回答を受け取ることができます。自分の車の後部に荷物が収まるかどうかを確認することは、この完璧な例です。
ジェネレーティブAIの短期的な可能性をCMSに活用
AI検索が初期の問題を解決するには時間がかかるかもしれませんが、近い将来には、ジェネレーティブAIによってコンテンツがますます大量に生産されるようになるでしょう。そのコンテンツの多くはスパムで終わる可能性が高いので、ウェブにとっては悪いニュースです。しかし、CMSにとっては、管理すべき正当なコンテンツが増えるので、良いニュースでもあります。
Velir社のKevin Quillen氏は、ChatGPTとDrupalを連携するツールを作成しました。それを聞き私は胸を躍らせました。これによって、ChatGPTがDrupalのようなCMSにどのような影響を与えるかを実験することができます。
下のビデオは、Drupalの内部でジェネレーティブAIの力を活用して、コンテンツ作成者が新しいアイデアを生み出し、オーディエンスに響くコンテンツを作成できるかを示しています。
同様に、コンテンツを異なる言語に翻訳する、タグやタクソノミーの用語を提案する、検索エンジン向けにコンテンツを最適化する、コンテンツを要約する、コンテンツのトーンを組織の標準に合わせる、などといったことにAI統合を使用することができます。
以下のスクリーンショットは、これらのユースケースがDrupalでどのように実装されたかを示しています:
ビデオとスクリーンショットを実現するDrupalモジュールはオープンソースであり、Drupal.orgのOpenAIプロジェクトにあります。誰でもこれらのモジュールを使用して、使い勝手を試したり、知的好奇心を育むことができます。補足:これはオープンソースの技術革新が常に勝利することを示すもう一つの例です。
これらのモジュールのソースコードを見てみると、DrupalにAI機能を追加するのが比較的簡単であることがわかります。ChatGPTのAPIは、統合プロセスを簡単にしています。Drupalから推定すると、来年にはあらゆるCMSがコンテンツの作成と管理のためのAI機能を提供する可能性が非常に高いと考えています。
つまり、今後1年半の間に、多くのテキストフィールドが「AI化」されることが予想できます。
AIクローラーへの最適化でWebサイトの可視性を高める
もう一つの短期的な変化は、マーケターが現在検索エンジンで行っているように、AIボットに対してコンテンツをより良くアピールすることを求めるようになることです。
私は、AIの最適化が検索エンジン最適化(SEO)と大きく異なるとは考えていません。検索エンジンと同様に、AIボットも信頼性、権威性、関連性、コンテンツの理解しやすさを重視する必要があります。高品質なコンテンツが不可欠であることに変わりはありません。
今のAI検索エンジンでは、アトリビューションが問題になっています。コンテンツがどこから引用されたのかが分からないことが多く、その結果、AIボットを完全に信頼するに至っていません。今後、より多くのAIボットがアトリビューションを提供するようになることを期待しています。
また、より多くのWebサイトがコンテンツのライセンスを明示し、検索エンジン、クローラー、チャットボットが、コンテンツを使用、再構築、採用できる方法を明示することを期待しています。
上記のスクリーンショットからわかるように、私は自分のサイトにある10,000枚以上の写真すべてにライセンスを指定しています。これらはクリエイティブ・コモンズ の下で利用できるようにしています。ライセンスはHTMLコードで指定し、クローラーがプログラムによって抽出できるようにしています。ブログの記事についても、同様に行っています。
クリエイティブ・コモンズでライセンスすることで、ChatGPTのようなツールに、ライセンス条件に従っている限り、私のコンテンツを使用する許可を与えていることを示しています。ChatGPTが現在その情報を使ってないと思いますが、将来的には使われる可能性があります(おそらく使うべきです)。
Webサイトが高品質のコンテンツを持ち、AIツールがそのソースにクレジットを与える場合、これはWebサイトに戻るオーガニックトラフィックをもたらすことができます。
すべてを考慮すると、AIボットがデジタル体験を提供するチャネルとしてますます重要になり、Webサイトがチャットボットの主な入力ソースになるというのが私の基本的な見通しです。Webサイトは、コンテンツをAIツールに最適化するために、小さな、段階的な変更を加えるだけでよいのではないかと思います。
AIツールがWebサイトに与える長期的な影響を予測する
長期的には、AIツールはデジタルマーケティングとコンテンツ管理に大きな変化をもたらす可能性があります。
今後、AIボットが事実に基づいた情報を提供するだけでなく、感情や人格を伴ったコミュニケーションを行い、Webサイトよりも人間に近い対話を提供するようになると私は予測しています。
従来のWebサイトと比較して、AIボットはマーケティング、セールス、カスタマーサクセスに優れていることになります。
人間とは異なり、AIボットは完璧な商品知識を持ち、多くの言語を話し、そしてここが重要なのですが、どんな感情のレバーを引くべきかを識別する鋭い能力を持っています。欲、プライド、フラストレーション、恐怖、利他主義、羨望など、お客様の動機に訴えかけることができるようになるのです。
デメリットとしては、AIボットが誤った情報を流すことに「長ける」ようになったり、従来のWebサイトにはない方法で感情的な苦痛を与えることができるようになるかもしれない、ということが挙げられます。AIボットには否定できないダークサイドがあるのです。
私がより推測的かつ長期的に考えているのは、AIチャットボットがリード生成とコンバージョンのための最も効果的なチャネルとなり、デジタルマーケティングに関してはWebサイトを上回る重要性を持つようになるというものです。
適切な規制やポリシーがなければ、その進化はよく言えば波乱万丈、悪く言えば危険なものになるでしょう。「アルゴリズムが私たちの生活を支配するとき、誰がそれを支配すべきなのか?」と、2015年から主張を続けています。米国のFDA(食品医薬品局)や欧州のEMA(欧州医薬品庁)が食品や医薬品を監督するように、社会に大きな影響を与えるアルゴリズムには規制や政策が必要だと私は考え続けています。
AIがWebサイト開発に与える影響
もちろんのこと、ジェネレーティブAIの利点は、コンテンツ制作やコンテンツ配信にとどまりません。コードの記述(GitHub上の新しいコードの46%はGitHubのCopilotによって生成されている調査結果)、セキュリティ脆弱性の特定(ChatGPTはプロのソフトウェアセキュリティスキャナーの2倍のセキュリティ脆弱性を発見)、などといったソフトウェア開発にも利点は含まれます。AIがソフトウェア開発に与える影響は複雑なトピックであり、別のブログ記事を掲載する必要があります。ここでは、ChatGPTを使ってDrupalモジュールを構築する方法を実演したビデオを紹介します。
ジェネレーティブAIのリスクと課題
私はAIの可能性を楽観視していますが、AIに関連するいくつかの潜在的な課題についても説明しなければいけません。
私の好きなクッキーを焼いてくれるよう妻にお願いする誠実な手紙を書いてくれるなど、ジェネレーティブAIはある側面では非常に優れていますが、それでも重大な問題を抱えています。以下の問題が考えられます(ただし、これらに限定されるものではありません):
- 法的な懸念:著作権で保護された作品が、トレーニングデータセットに意図せずに含まれていることがあります。その結果、ジェネレーティブAIを盗作のハイテク形態と考える人も多いです。マイクロソフト、GitHub、OpenAIは、著作権法違反の疑いですでに集団訴訟に直面しています。AIが生成したコンテンツの所有権や保護については、AIツールが著作権法上のオリジナルコンテンツの「クリエイター」とみなせるかどうかを含め、不明確な点がまだ多いです。技術者、弁護士、政策立案者が協力して、AI活用のための適切な法的枠組みを策定する必要があると思います。
- 誤報の懸念:AIシステムはしばしば「幻覚」を見たり、事実をでっち上げたりするため、ウェブの誤った情報の問題を悪化させる可能性があります。私が見た中で最も興味深い例えのひとつが『The New Yorker』誌によるもので、Web上のすべてのテキストをぼやけたJPEGにしたようなものだと表現しています。JPEGファイルがオリジナルの品質と完全性を失うように、ChatGPTはウェブ上のテキストを要約し、近似的に表現しています。
- バイアスの懸念:AIシステムは、ジェンダーや人種的なバイアスを持つ可能性があります。Web上で利用可能なコンテンツのかなりの割合が、欧米諸国在住の白人男性によって生成されていることは広く認められています。そのため、ChatGPTのトレーニングデータと出力は、この人口統計学的なバイアスを反映する傾向があります。特に、このような技術が社会に与える影響を考えると、バイアスは厄介なものであり、危険である可能性もあります。
上記のような法的な著作権、誤報、バイアスに関する問題は、倫理的な懸念も生じさせています。
私なりの戦略
破壊的な変化は、両極端なものである可能性があります。新たな機会をもたらす一方で、現実的なマイナス面もあります。
私は、AIを止めることはできないと考えています。私の考えでは、変化に抵抗するよりも、変化を受け入れ、生産的に前進することに集中したほうがよいという結論に落ち着いています。アルゴリズムと法的枠組みの両方を繰り返し改善することで、時間の経過とともに懸念が解消されることを期待しています。
かつて、インターネットにはリスクがつきものでしたし、今もそうです。ですがほとんどの場合、生産性と効率性の向上はリスクを上回ります。
AIを使うことに反対する個人や組織もありますが、私の個人的な戦略は、慎重に進めることです。私の戦略は、(1)日常的な使用ではなく、AIの実験に焦点を当てること、(2)人々が自ら選択できるように、AIの課題を明らかにすること、の2点です。このブログ記事の前のセクションは、それを試みたものです。
また、組織が独自のデータを使ってカスタムAIボットを訓練することも期待しています。そうすれば、多くの懸念が解消され、組織はマーケティングやカスタマーサクセスといった用途でAIを活用できるようになります。Simon Willisonは、数時間の作業で、自分のWebサイトのコンテンツに基づいて独自のモデルをトレーニングできたことを示しています。時間が許せば、私自身もそれを実験してみたいと思います。
まとめ
私は、AIが今後数日、数ヶ月、数年のうちにWebをどのように変えていくのか、興味深く、警戒し、そして刺激を受けています。
近い将来、ジェネレーティブAIは、私たちのコンテンツ制作の方法を変えるでしょう。CMSへの統合はシンプルかつ多数になり、WebサイトはAIツールにコンテンツを最適化するために小さな変更を加えるだけでよくなると予想しています。
長期的には、AIは、私たちとWebとの関わり方、Webと私たちとの関わり方を変えるでしょう。AIツールは、Webサイトの相対的な重要性を着実に変化させ、デジタルマーケティングにおいては、Webサイトを上回る重要性を持つ可能性もあります。
エキサイティングな時代ですが、慎重に前進していきましょう!
元記事:Artificial Intelligence, the Future of Content Management, and the Web