DrupalCon Lille で AI に注目が集まる
懐疑的な人も熱心な人とっても、人工知能(AI)はすでに日常生活に溶け込んでいます。音声からテキストへの変換、デジタルアシスタント、製品のおすすめから顧客サービスのチャットボットまで、日常的に接する多くのツールやサービスの裏側には、AIが存在するのです。
DrupalCon Lille においても、AI は頻繁に登場しました。例えばコーヒーブレイクでは、Dropsolid による Drupal 内の AI に関するライブデモや、オープンソースである Mautic における AI の可能性について、また FFW による Drupal における AI の現状についてなど、15分間のプレゼンテーションが行われました(何らかの AI 関連機能を実装しているモジュールは168個あり、そのうち77個はすでに Drupal 10と互換性を持っています)。また、アクイアブースでは、Drupal 10に関する質問に答えてくれる AI ビデオチャットボット ChatDriesPT と会話できるコーナーが設けられました。
もちろん、AI に特化したセッションは数多く開催されていますが、明確に AI 技術について触れられていないセッションであっても、AI が Drupal の未来やデジタル全体の未来にどのような影響を与えるのか?という問いに Drupal コミュニティが取り組む中で、AI は定期的に話題にのぼります。以下に DrupalCon で行われた AI に関する会話をご紹介します。
Drupal と AI でデジタル体験の可能性を解き放つ
アクイアのコミュニティパートナー、Axelerant のビジネスアナリストであるサランヤ・ラジャラム氏からは、AI の魔法と、それを使って魅力的なエンドユーザーエクスペリエンスを提供する方法について話がありました。膨大な量のデータを処理し、パターンを学習し、スマートな意思決定を行う AI の能力を考えると、特に Drupal をベースとしたデジタルエクスペリエンスプラットフォーム(DXP)と組み合わせた場合、ビジネスが顧客と関わる方法に革命を起こすことが考えられます。
企業がオンラインプレゼンスを高め、顧客の期待に応え、より高い満足度とロイヤリティをもたらす体験を創り出すための革新的な方法を模索する中、AI と DXP が一緒になることは理にかなっていると言えるでしょう。Drupal は AI によって、高度にパーソナライズされたシームレスで魅力的なエクスペリエンスを提供できる、スマートで適応力のあるプラットフォームに進化します。サランヤ氏は、AI が可能にする DXP の5つの強化点を強調しました。
- パーソナライズとおすすめ:ユーザーの興味やニーズに沿ったコンテンツや体験を提供することで、ユーザーのエンゲージメントと満足度を向上
- 会話のインターフェース: 人間とコンピューターのやりとりを、より人間同士の会話のように感じさせ、ユーザー体験を向上
- コンテンツ管理の自動化:コンテンツの質を向上させ、よりパーソナライズされた効率的なコンテンツ体験を提供することで、コンテンツ管理プロセスと全体的なユーザー体験を向上
- 検索の強化:よりユーザー重視で、スマートかつ魅力的な検索体験を実現し、ユーザー満足度の向上、ユーザー定着率の上昇、コンテンツ発見力の向上
- データ分析とインサイト:データドリブンな洞察とアクションを通じて最適なデジタル体験を提供し、ユーザーを効果的に取り込み、ビジネス目標を達成
それぞれの可能性に対して様々なツールを提案するだけでなく、サランヤ氏は AI ツールを Drupal に統合するためのベストプラクティスに関してもいくつかの考察を紹介しました。
- 詳細な要件分析
- 適切な AI ツールの選択
- 技術的専門知識
- データの準備と品質
- データのプライバシーとコンプライアンス
- メンテナンスと更新
- パフォーマンスの最適化
- データの解釈を容易にし、説明しやすくする
- ダイバーシティとインクルージョン
- ユーザーのトレーニングと採用
サランヤ氏はまた、AI ツールの限界と課題を再認識するよう、セッションの参加者に呼びかけました。その多くは、Digitalist がセッションで取り上げたトピックと重なるものでした。
AI を新しい同僚として迎え入れる
満員のセッションの中で、Digitalist の CEO であるウルリカ・メンショエル・ウェデリン氏と Digitalist の最高 AI 責任者であるデイヴィッド・ホルムルンド氏は、AI ツールをチームの一員として組み込むまでの道のりを共有しました。3月から、AI ツールのライセンス料を全従業員に支払うという経営陣の決定から、新たな同僚となる AI のオンボーディング・プロセスがスタートしたそうです。倫理とデータプライバシーに関する AI ポリシーを策定し、AI 最高責任者の役割を確立。AI 関連のミートアップを開催して、すべてのスタッフ会議で AI について議論するセクションを設けました。Digitalist での合言葉は、「AIは私を手伝ってくれるだろうか」となりました。
Digitalist のチームに新たに加わった「同僚」は以下の通りです。
- コンテンツ作成、アイデアのブレスト、フィードバック、ドメイン知識などをサポートする年中無休のアシスタント
- コードに関する提案、編集、合理化、またはコードについての説明を行うことで、献身的に開発を支援するデベロッパー
- 画像、ビデオ、音楽、スピーチ・コンテンツの作成をサポートするメディアの専門家
これらの新しい「同僚」によって、Digitalist は利点と欠点の両方を享受することになります。これらは手っ取り早く始める方法や先延ばしの解決策を提供する一方、人による監視の必要性、情報セキュリティ、倫理的な懸念、そして未完成のツールという性質がトレードオフになってしまいました。ウェデリン氏とホルムンド氏は、AI ツールを導入する際の懸念事項として、倫理、偏見、仕事への影響、能力、法律と規制、不正、透明性、AIの幻想、企業利用、緊急時の利用、個人データと情報セキュリティなどを挙げました。
最終的に彼らは、従業員に AI ツールの利用を開始することを検討している他の企業に次のようなアドバイスを贈りました。
- ガイドラインを確立すること
- 継続的な意識向上トレーニングを行うこと
- 学ぶことを受け入れること
- 同僚の不安を思いやること
- ディスカッションを重ねること
- とにかく始めること
- 評価し、学び、さらに話し合うことなど
AI によるコンテンツ制作ワークフローの見直し
Tern Bicycles のシニアウェブデベロッパーであるクリス・ウー氏は、AI をウェブコンテンツのワークフローの一部として活用する新しい方法を考え、創造することを続けています。AI モデルには多くの種類がありますが、ウー氏は大規模言語モデル(LLM)とその4つの主要機能に注目しました。
- 拡大:有益で質の高いコンテンツを素早く生成する
- 要約: 最も重要な情報を保持しながら、長文コンテンツの要約を抽出する
- 変換: ブランドやオーディエンスに合わせて、コンテンツの翻訳、変換、トーンの変更などを行う
- 推測: コンテンツを分析し、隠れたパターンや インサイトを見つけ出し、ワークフローを最適化する
ウー氏は、Drupal モジュールの既存機能、彼の組織独自の貢献、今後の開発のアイデアなど、コンテンツ作成プロセス全体で AI を利用する可能性を強調しました。
- コンテンツの下書き: Open AI: CKEditor Integration モジュールは、テキストの完成、トーンやボイスの調整、要約、翻訳、再フォーマットなどの機能を提供
- コンテンツの見直し: ペルソナをよりよく理解し、コンテンツを洗練させるために、クリス氏は読みやすさと校正を支援する AI ツールの利用を提案。AI モデルにペルソナを定義して、そのオーディエンスのニーズとコンテンツの適合性を採点させたり、様々なスタイルガイドに照らして文章をチェックしたり、英国と米国のスペルなど言語の違いをチェックすることも可能
- 翻訳:AI 翻訳が MS-Translator のようなニューラル機械翻訳を凌駕し始めている。Drupal モジュールTMGMT と、自身の会社の開発した OpenAI Translator を組み合わせてすべての翻訳を管理し、OpenAI を翻訳者として使うことを提案
- SEO:AI を活用した SEO ツールは、オーディエンスが何を求めているかを深く理解し、SEO に適したタイトルやキーワードを提案するなど、メタデータ作成を支援する
- キャンペーンとソーシャルメディア: AI は口調を真似たり、各ソーシャルメディアプラットフォームの制約を理解したりできるため、投稿の作成に利用できる。クリスは、事前に定義されたペルソナを活用し、ターゲットを絞ったソーシャルメディア投稿を作成する AI Readability Toolbox のアイデアを共有
このセッションや他のセッションからわかるように、AI を活用する方法は実に多岐に渡ります。AI には周知の課題や限界が数多くある一方で、数え切れないほどのメリットもあります。AI への注目は尽きることはありません。Drupal と AI の未来を定義するとき、Drupal コミュニティが次に何をするかはまだ分かりませんが、今のところ、Dries Buytaert は何が起きようとしているのかについて、すでに考えがあるようです。Drupal の生みの親が、AI とオープンソースプラットフォームで何が期待できると考えているのか、こちらの記事もぜひご覧ください。